「公取委によるJASRACへの排除命令に3つの疑問」に勝手に答えてみる

岸博幸が「公取委によるJASRACへの排除命令に3つの疑問」で公正取引委員会を批判している。
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT12000006032009


疑問があるようなので、勝手に回答してみよう。


■第1の疑問:誰のための競争促進か?
答え:もちろん需要者(放送事業者)の利益の増大のためです。
岸博幸はこう述べる。(太字はGim)

ところが、今回の公取委の命令は、新規参入した著作権管理事業者(仲介者)の情報と権利者(供給者)の証言だけから出されている。なぜ需要者である放送事業者の見解は公取委の判断に反映されなかったのだろうか。おそらく反対されるからなのであろう。その結果、この特殊な市場において需要者の利益が増大されない歪んだ命令が出された公取委は、本来は手段でしかないはずの競争促進を自己目的化して、政策が達成すべき本来の目的を無視して暴走したとしか思えない。

公正取引委員会は、需要者の利益が増大される正しい命令を出しました。
すなわち、現状の1.5%が削減される道筋が示されたのです。
これに反論するためには、JASRACによる独占状態においても1.5%が削減される道筋が示される必要があります。
どこかで誰かが示しましたっけ?
また、

 そして、問題となっている包括契約は一仲介者と需要者の間で作られた慣行であり、それを変更するには両者による取り組みが不可欠である。それなのに、片方の当事者であるJASRACのみに命令を出し、かつその中では具体的な解決策の方向性すら示していないというのでは、明らかに不公平である

これは、

  • 個別報告を行えば、今の1.5%では済まなくなり結果として2.0%などになったりしてかえって悪化する。
  • 個別報告は放送事業者の作業となるので、一方的にJASRACが要求できるものではない。

ということを意味しての発言と思いますが、それに対して、
「具体的な解決策の方向性すら示していないというのでは、明らかに不公平である」という意見は履き違えをしていると思います。
すなわち、「解決策の方向性は、君たちの自主性に任せるよ。ただし、君たちが示せないと言うのなら、こちらで解決策を示すよ。」という意味と捉えるべきです。


■第2の疑問:独禁法で競争は促進されるのか?
答え:もちろん競争は促進されます。


岸博幸はこう述べる。(太字はGim)

 著作権管理事業は、その性質からインフラビジネスと考えるべきである。楽曲に関するデータベースの整備が不可欠だし、権利者や利用者とのネットワーク(物理的なものとデジタルの両方)も必要である。過去60年の長きに渡って独占が続いたインフラビジネスなのである。しかも、供給者・需要者・仲介者という3者が存在する、通常とは異なる市場である。
 従って、そこで競争を促進するのは並大抵なことではない。インフラ性を持つ要素をどう新規参入者に開放するかなど、産業政策的な対応が非常に重要な役割を果たすことになる。つまり、公取委の競争政策よりも市場の所管官庁による産業政策的な対応の方が必要なのである。
 それにも関わらず、産業政策よりも競争政策がどんどん前に出てきては、かえって健全な市場の形成を歪めることになってしまう。電気通信や電力の市場での過去の政策の歴史を振り返るべきである。公取委は余計な介入をすべきではない。

もちろん(岸博幸が述べているように)電気通信や電力の市場での過去の政策の歴史を振り返るべきである。
すなわち企業分割である。(東京電力関西電力NTT東日本NTT西日本、JR東・JR西などなど)
岸博幸が述べているように、JASRACJASRAC演歌・JASRAC東POP・JASRAC西POPなどに分割されるべきであろう。
分割されないからこそ、公正取引委員会が目を光らせているのである。
「なんで俺たちがソフトバンクに塩を送らなけりゃならないんだ」
と愚痴をこぼしながらも、NTTは(しょうがなく)独占しないように企業活動を行っている。
「なんで俺たちがイーライセンスを助けなけりゃならないんだ」
と愚痴をこぼす状況になるべきなのだ。


■第3の疑問:なぜ今?
答え:伺いすぎです。問題の発端は平成18年度末の事案であり、他の事案と比較しても特段遅くはありません。
(例:任天堂の液晶に関する排除命令など)
なぜ時期を問題にするのでしょうか?それは、例えば、
「あと2年待ってくれれば、放送事業者の協力が得られ、個別報告がされるので、包括契約によるイーライセンス排除が無くなるのに
ということであれば、時期を問題にすべきでしょう。でもそうではありません。
今後100年経とうが、他事業者の排除状態が無くなることは無いでしょう。
そうであれば、排除命令が早く出されることはよい事で、責められるべき事ではありません。



さて、今回の排除命令JASRAC分割を回避するための最後のチャンスです。
果たしてJASRACは分割を回避することができるのでしょうか?